BIOTERROR
バイオテロ
COLUMN 008
 
 細菌兵器、それは「貧者の核兵器」と呼ばれています。バイオテロは21世紀の国際的な脅威であり死を招く大量破壊兵器です。音もなく、味や匂いもない未知の恐怖です。バイオテロが成功すれば都市機能は停止します。家族でさえ危険な存在になり、私たちの社会そのものが崩壊するのです。
 
- 米国疫病防疫センターでは最も危険な病原菌をリストアップしています -

- その危険な病原菌はこの6種類です -
 
     
   
 
  炭疽菌 【Bacillus anthracis】

炭そ菌は殻の覆われた芽胞の状態で生き続けることができます。炭そ菌の芽胞は通常の菌とは違い宿主の体外でも生き続けます。熱、低温、日光に強く乾燥しても死にません。まるでタイムカプセルです。芽胞の中で行動を起こす時を待っているのです。免疫細胞の中に取り込まれた炭そ菌は増殖をはじめます。やがて免疫細胞から飛び出しすべての臓器に寄生します。数日で何兆もの菌が有毒なタンパク質を放出して死に至るまで組織を食い尽くします。
 炭そ菌テロは突然社会を襲いました。2001年10月。911テロの3週間後、フロリダで炭そ菌による感染者が出ました。疫病防疫センターの調べによると、炭そ菌は郵便封筒の中に仕込まれ感染者の職場に送りつけられたものでした。その後、炭そ菌の入った郵便物はマスコミや行政当局にも届きはじめます。同年10月15日FBIが封筒を法医学分析したところ、炭そ菌は煙のように細かい粒子で植物質や残がいなどが一切含まれていない高純度の炭そ菌芽胞であることが判明しました。この事件で数百人が菌にさらされ5人が死亡し、捜査と施設の浄化費用は数十億ドルに及びましたが、長年の調査の甲斐もなく現在も犯人は捕まっていません。
 
     
   
 
  ツラレミア 【Francisella tularensis】

ツラレミア菌はたった10個で死に至ります。手遅れになるまで免疫システム
に身を隠しているのが特徴です。重症になると酷い肺炎を起こし感染者の30%が
死亡します。
 炭そ菌テロが起きて直ぐに米国政府はバイオウォッチという装置を主要な大都市に設置しました。バイオウォッチは繊細なシステムで大気中のほんの少しの病原菌も見逃しません。米国ではバイオウォッチで採取した大気サンプルを毎日検査しています。2003年10月4日、ヒューストンでバイオウォッチから6大病原体のひとつであるツラレミア菌採取の警報が発せられました。大衆の混乱を避けるため捜査は極秘の行われましたが、バイオウォッチ以外から菌は発見されませんでした。捜査の結果、ヒューストンの土壌に元々ツラレミア菌が存在していることが判明し、菌の入った土が強風に飛ばされてセンサーが反応したようです。炭そ菌事件の小型版かと思われたこの事件はバイオウォッチの性能を証明する事件となりました。
 
     
   
 
  出血熱ウイルス 【Hemorrhagic Fevers】

美しくカールした形をしています。伸ばすととても長く細く、表面にトゲ状の突起があります。マジックテープのように細胞にくっつき、自分の遺伝子情報を注入し発病させます。フィロ(ひも状)ウイルスは免疫細胞に浸透して破壊します。白血球を乗っ取りホルモンを大量分泌させ、このホルモンが血管の内側を攻撃します。弱った血管はやがて破裂し、患者の目や鼻や口など体中の穴から大量に出血するようになります。
 1967年ドイツの穏やかな街マールブルグで、ウガンダ産のサルの組織を実験用に使用していた製薬会社の社員が医学書には載っていないアフリカのウイルスに感染しました。それはマールブルグウイルスと呼ばれ、マールブルグウイルスはフィロウイルス科の熱性疾患で人獣共通感染症でした。当時4人が死亡しています。1976年にはアフリカのザイールやスーダンで同種のウイルスで最も恐ろしいエボラ出血熱が驚くべき破壊力を立証しています。感染者の90%が数日で死亡したのです。実際テロリストがエボラウイルスの採取を試みた事例があります。それはオウム真理教です。教祖の麻原彰晃はエボラ出血熱の被害者を救うためと言って90年代初頭アフリカへ行きました。カルト教団の性質を考えると援助のためではなくウイルスの採取が目的だったようです。
 
     
   
 
  ボツリヌス菌 【Botulinum toxin】

ボツリヌス菌は空気なしで生育できます。問題は菌自体ではなく分泌される毒素で、これは微生物界の精密兵器です。毒素は2つの部分からなり1つは照準装置で神経細胞を発見ししがみつきます。もう1つは弾頭部で神経細胞の命令を遮断します。毒素の分子が神経と筋肉の中断点に侵入し、神経伝達物質の分泌を阻止させるのです。そして筋肉は麻痺を起こし死に至ります。わずか100グラムの毒素で人類全てを殺すことができます。
 ボツリヌス菌は美容医療のクリニックで毎日使われ簡単に入手できます。ボトックス療法です。ボトックス療法とは低濃度のボツリヌス菌毒素を患部に注射することによりシワを形成する筋肉の動きを弱め、表情ジワを作らせないようにするなどの美容医療です。ボツリヌス菌毒素の破壊力はフロリダで明らかになりました。2004年11月パームビーチでボツリヌス中毒症の患者が報告されました。患者はボトックス医療により、高濃度の毒素を注射されたことによるものでした。
 
     
   
 
  ペスト 【Yersinia pestis】

今も自然界に存在し、ペスト菌は巧妙に宿主細胞を破壊します。分子の注射器を作り細胞に毒素を注入し効果的に宿主細胞を殺します。
 ペストは14世紀のヨーロッパで猛威を振るい、ヨーロッパ全人口の3割が命を落としたことで有名です。米国及び旧ソ連においては、以前兵器化が進められていました。第二次世界大戦中の日本軍においては731部隊による中国農村部へのペスト菌投下攻撃がありました。1930年代は菌の培養方法は知られていなくても、ノミやネズミがペスト菌を媒介することは周知の事実で、日本軍はノミだらけのネズミを飼育し、ペスト菌に感染したノミを使用して人間に感染させました。ペスト菌に感染したノミを投下された中国では何千人もが腺ペストを発症し何百人もが死亡しました。当時の粗末な散布方法でも効果は絶大だったのです。
 
     
   
 
  天然痘 【Variola major】

天然痘は複雑なウイルスで強力な殺傷兵器です。人間だけに感染し何億人もの死者を出しました。表面の小さな突起はまるでフックのように細胞に引っかかり体内に侵入します。免疫系が見つけ出すには非常に困難です。免疫系には数々の対処法がありますが天然痘はどれに対しても反撃する恐ろしい病原体です。天然痘ウイルスは細胞の機能を利用して増殖します。次々と細胞の輸送システムに乗り細胞膜に取り付きます。そして細胞から飛び出したウイルスが次の細胞へと感染します。
 1970年ドイツの聖ヴァルブルガ病院にて天然痘患者が報告され、病院は隔離されました。隔離された院内では5週間で20人が天然痘に感染し、4人が死亡しました。このドイツでの発生が最期の自然発生で、1977年ソマリアでの患者を最期に1979年のワクチン接種で天然痘は根絶されました。根絶後は米国とロシアのBSL(バイオセイフティーレベル)4の施設で保管されていましたが、冷戦中のロシアは何トンもの天然痘ウイルスを培養し、生物兵器として開発していました。そして1980年ロシアは天然痘を搭載したミサイルをアメリカに向けて配備していた事実があります。

 

 核兵器を用いて敵対する人間を殺すには2,000ドルの費用がかかるのに対し、化学兵器を使った場合は一人当たり200ドルで済むと言われていますが、これに対し、生物兵器の場合1ドルで済むと言われ、生物兵器が貧者の核兵器と呼ばれているゆえんでもあります。1995年東京の地下鉄でオウム真理教は神経ガスのサリンを散布し、12人もの死者を出し数千人が負傷しました。最終的にオウム真理教は化学兵器を使用しましたが、生物兵器にも興味を持ち、専門教育を受けた人間がいなかったのにも係わらず、大量のボツリヌス菌や炭そ菌を増殖させていました。専門家でなくとも、微生物学の教科書等を見よう見まねで生物兵器を製造できていたのです。インターネットで実験道具が容易に入手できる現在、車が2台入るガレージがあれば3〜4人で生物兵器の開発が可能であると言う専門家もいます。北朝鮮、イラン、イラク、シリアなどのテロ支援国家では実際に現在でも生物兵器の開発が国家ぐるみで行われていると言われています。また、近年の遺伝子操作技術の発達に伴い新種の細菌やウィルスを理論的に無限製造できるようになってきています。自然界に存在する毒性を持つ細菌やウイルスの対策のみならず、遺伝子操作により有害な微生物による生態系の破壊や伝染病などの災害が発生した場合の脅威は計り知れません。生物兵器が使用された場合、基本的に被害は散布された周辺のみにとどまりますが、感染してもすぐには効果が現れず感染者が移動することにより広範囲にわたって影響を及ぼします。近年、一日あれば世界のどこにでも行けるほど移動手段が発達し、飛行機での渡航者は一日に400万人と言われています。被害は想像以上に大きくなる可能性があり、生物兵器は我々の身近な恐怖として捕らえる必要があるようです。