生物兵器
WEAPONS MANUAL 019
 
生物兵器(Biological weapon)は、化学兵器(Chemical weapon)と核兵器(Nuclear weapon)との頭文字を合わせてNBC兵器として総称されている。いずれも大量殺戮の可能性のある兵器で、生物兵器においては安価かつ製造も容易であるため、テロにおいてこの生物兵器が使用される可能性が新たな脅威となっている。
 
生物兵器 【Biological weapon】
生物兵器とは、病原微生物による病原性を利用してヒト・動物・植物に害を与える兵器である。利用される病原微生物あるいはその毒素を生物剤という。生物剤には、1:製造が比較的容易で安価である。2:曝露してから発症するまでに通常数日間の潜伏期がある。3:使用されたことを認知することが容易でない。4:実際に使用しなくても心理的効果を与えることができるなどの特徴がある。このため、生物兵器は、国家が武力攻撃に用いるだけでなく、個人や団体がバイオテロとして用いることがある。生物剤によって起こる病気には主に、下の表1に示すようなものがある。生物剤は細菌・リケッチャ・ウイルス・毒素と多様で、テロリストがこのような細菌・リケッチャ・ウイルス・毒素を噴霧等することにより、吸いこんだり飲み込んだりしたヒトが被害を受ける可能性が心配されている。なお、下の表1でLD50とは、実験動物の集団で毒素を与えた場合、ちょうど半数が死ぬような一匹あたりの毒素の分量をいう。LD50が少ないほど強力な毒ということになり、マイクロは10のマイナス6乗を示す。
 
<表1>
生物剤 人から人への感染 吸気中にどのくらい菌があれば感染・発病するか 潜伏期 発病した場合の致死率 徴候と症状 治療 予防

吸入炭疽(肺炭疽) なし 8000〜50000個の芽胞 1〜6日 皮膚:25%、吸入性及び腸:ほぼ100% 発熱、咳、軽度の肺の不快感に続いて、チアノーゼを伴った重度の呼吸困難、重篤な症状が発現した後24〜36時間以内にショックや死に至る 対症療法、抗生物質の投与 ワクチンが有効、抗生物質の予防的投与
ブルセラ症 なし 10〜100個の菌 5〜60日、平均1〜2か月 治療されなかった場合で5%未満 不規則な熱、頭痛、倦怠感、悪寒、関節痛、筋肉痛、抑うつなどの精神症状 抗生物質の投与 ワクチンなし
コレラ菌 まれ 1億〜100億個の菌 4時間〜5日、平均2〜3日 50%、治療した場合は低減 発熱、嘔吐、下痢、脱水症状、ショック 水分と電解質の補充、抗生物質の投与 死菌ワクチン弱毒生ワクチン
鼻疽菌、類鼻疽菌 低い 少ない量と思われる 吸入した場合10〜14日 50%以上 発熱、悪寒、発汗、筋肉痛、頭痛、胸膜炎性の胸痛、頚部リンパ節腫脹、脾腫や全身性の丘疹や膿疹 抗生物質の投与 抗生物質の予防的投与
ペスト菌(肺ペスト) 高い 100〜500個の菌 2〜3日 12〜24時間以内に治療しなければ100% 高熱、悪寒から、急速に進行して、チアノーゼを呈する呼吸不全、循環虚脱と出血傾向から死に至る 抗生物質の投与、対症療法 死菌ワクチンは無効
ペスト菌(腺ペスト) ノミが媒介   2〜10日 50% 倦怠感、高熱が自然に進行し、敗血症となり、中枢神経系、肺などに波及 抗生物質の投与、対症療法 死菌ワクチンが有効
野兎病菌(潰瘍腺型) なし 10〜50個の菌 1〜21日、平均3〜5日 治療しなければ中等度 局所の潰瘍と所属リンパ節腫脹、発熱、悪寒、頭痛、倦怠感 抗生物質の投与 弱毒生ワクチン(治験中)、抗生物質の予防投与
チフス型 なし   1〜21日、平均3〜5日 35% 発熱、頭痛、倦怠感、胸骨下不快感、衰弱、体重減少、乾性咳嗽 抗生物質の投与 弱毒生ワクチン(治験中)、抗生物質の予防投与




Q熱リケッチャ まれ 1〜10個の菌 2〜14日、平均7日 非常に低い 発熱、咳嗽を伴った胸膜炎性胸痛 抗生物質の投与 Q熱ワクチンの接種、抗生物質の予防的投与



痘瘡(天然痘ウイルス) 高い 10〜100個のウイルス 7〜17日(平均12日) 高〜中等度 急激に倦怠感、発熱等で始まり、2〜3日後、四肢顔面を中心に皮疹が現れ、膿疱性小疱疹となる 対症療法 天然痘ワクチン接種、再ワクチン接種、免疫グロブリンの投与
馬脳炎ウイルス(ベネズエラ馬脳炎など) 低い 10〜100個のウイルス 1〜5日 1%未満 全身の不快感、弛張熱、頭痛、羞明、筋肉痛、吐き気、嘔吐、咳嗽、下痢 対症療法 ワクチン(治験中)
出血熱ウイルス(エボラ出血熱、マールブルグ病、黄熱病、ラッサ熱など) 中等度 1〜10個のウイルス 4〜21日 5〜20%以上、エボラ出血熱では50〜90%(ザイール株では高く、スーダン株は中等度) 易出血性、点状出血、低血圧、ショック、顔面、胸部の紅潮、浮腫を合併する倦怠感、筋肉痛、頭痛、嘔吐、下痢 集中的対症療法、抗生物質の投与、アルゼンチン出血熱には回復期血漿が有効 黄熱病ワクチン、ラッサ熱などには抗生物質の投与

ボツリヌス菌毒素 なし 0.001マイクログラム/kg(A型のLD50) 1〜5日 呼吸補助がなければ高率。呼吸補助があれば5%以下 眼瞼下垂、全身脱力、嚥下困難等の弛緩性麻痺から呼吸不全に陥る 気管内挿管と呼吸補助 抗毒素
ブドウ球菌性腸毒素B なし 0.03マイクログラム/ヒトで無能 吸入後3〜12時間 1%以下 発熱、悪寒、頭痛、筋肉痛、乾性の咳 対症療法 なし
リシン なし 3〜5マイクログラム/kg(マウスのLD50) 18〜24時間 高い(毒素量、曝露方法に依存) 吸入曝露で、発熱、、咳、肺水腫、呼吸不全経口摂取で重症の胃腸症状、消化管出血 対症療法 なし
T-2マイコトキシン なし 中等度 2〜4時間 中等度      
 
 
バイオテロ 【Bioterror】
生物剤、生物兵器を用いた大量殺傷型のテロをいう。
なお、テロは、テロリズムまたはテロルの略で、テロリズムとは、一定の政治目的を実現するために、暗殺・暴行などの手段を行使することを認める主義のこと、テロルとは、あらゆる暴力的手段を行使し、またその脅威に訴えることによって、政治的に対立するものを威嚇することをいう。
 
 
バイオハザード 【Biohazard】
生物災害を指す。人間や自然環境に対して脅威を与える生物学的状況や、生物学的危機をいう。実験室や病院内から細菌・ウイルスなどの微生物が外部へ漏出することによってひき起こされる災害・障害。特に、遺伝子操作により有害な遺伝子をもつようになった微生物による生態系の破壊や伝染病などの災害。