化学兵器
WEAPONS MANUAL 020
 
化学兵器(Chemical weapon)は、生物兵器(Biological weapon)と核兵器(Nuclear weapon)との頭文字を合わせてNBC兵器として総称されている。化学兵器禁止条約では、毒性化学物質の前駆物質や、それを放出する弾薬・装置も含むものとしている。
 
化学兵器 【Chemical weapon】
化学兵器とは、化学物質の有する毒性や刺激性などを利用してヒト・動物・植物に害を与える兵器をいう。利用される化学物質を化学剤といい、化学剤には次の6種類がある。
 
1:神経剤
神経剤には、G剤(サリン・ソマン・タブンなど:常温で液体だが揮発性高く、ガスとして吸入でも作用)とV剤 (VX:揮発性低く、液体のまま用いられる)とがあり、いずれも無色・無臭で、脂溶性が高く、皮膚からも吸収される。また、いずれも空気より重く、下を這うようにして広がる。曝露により死に至る場合がある。ところで、アセチルコリンは神経から放出される物質で、筋肉を刺激して収縮を起こしたり、分泌腺を刺激して分泌を起こしたり、あるいは他の神経を刺激する。アセチルコリンエステラーゼは、アセチルコリンが筋肉を刺激して収縮を起こしたり、分泌腺を刺激して分泌を起こしたり、あるいは他の神経を刺激したりしたとたんに、アセチルコリンを分解してしまう。神経剤は、アセチルコリンエステラーゼと結合して、アセチルコリンの分解を止めてしまう。そのため、アセチルコリンが過剰となり、筋肉収縮・分泌腺分泌・神経刺激が持続することになる。
アセチルコリンエステラーゼの阻害作用→アセチルコリンの蓄積→瞳孔収縮(目の前が暗くなる)・鼻水・神経麻痺→呼吸麻痺→死
 
2:びらん剤
皮膚・目・呼吸器に作用し接触面をびらん(やけど)させる。常温で液体。液体・蒸気で作用。主なものは、マスタード類とルイサイトなど。

マスタード類
身体では湿った部位に強力に作用。曝露後数時間で障害出現。曝露時に痛まないことから、曝露時に気づかないこともある。曝露により死に至る場合あり。
肺水腫・気道粘膜の壊死→二次性細菌性肺炎→死
マスタード類は骨髄幹細胞の障害を起こす。

ルイサイト
曝露後ただちに目および皮膚の痛み。目については
1分以内に大量の水で洗い流さなければ失明の可能性あり。皮膚に0.5ml付着でショック様。2ml付着で致死率高い。BALが拮抗薬。
 
3:窒息剤
吸入により肺水腫を起こし死に至る可能性あり。ホスゲン・塩素など。

ホスゲン
常温で気体。肺胞で水と反応して塩酸を生成し肺水腫を起こす可能性あり。空気より重く、下を這うようにして広がる。症状が出るまで24時間以上の潜伏期があることがある。干草のにおい、あるいは青いトウモロコシのにおいで無色。

塩素
常温で気体。粘膜で水と反応して塩酸を生成。粘膜・皮膚を強く刺激。
40〜60ppmで肺水腫。430ppm30分で死亡。1000ppm数分で死亡。塩素系の漂白剤・除菌剤として家庭で使用されるものからも発生する可能性がある。
 
4:シアン化物
血液によって細胞まで運ばれてから反応が起こるので血液剤とも言われる。細胞中でチトクロームオキシダーゼと結合し酸素利用を阻害する。ガスとして吸入されて作用する。液体は皮膚からも吸収されて作用する。主なものにはシアン化水素(青酸)と塩化シアンとがある。

シアン化水素(青酸)
致死量吸入で15分以内に死亡。沸点26度。空気よりやや軽い。苦いアーモンドの匂いで無色。

塩化シアン
体内でシアン化水素に変化。呼吸器の粘膜を刺激する作用もある。沸点12.8度。 
 
5:無(能)力化剤
少数の人を一時的に(長時間)動けなくする。主なものには3-キヌクリジニルベンジラートとリゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)など。

3-キヌクリジニルベンジラート
中枢神経系抑制剤。抗コリン作動性物質。1mg以下を1回投与でうわごとが数日続く。瞳孔散大し幻覚出現。

リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)
中枢神経系覚せい剤。幻覚出現。無臭・無色の固体で水に溶ける。
 
6:暴動鎮圧剤
無(能)力化剤が長時間なのに対し短時間動けなくする。

刺激剤(あるいは催涙剤)
カプサイシン(トウガラシエキス)
日本で護身用スプレーとして使われている。

嘔吐剤
エアロゾルで使用される。コショウ様の刺激。流涙。くしゃみ。嘔吐。

アダムサイト
症状が出現するまでに数分かかります。

神経剤に対する、よく使われる治療薬としては、以下のものがある。
PAM(アセチルコリンエステラーゼの活性化作用)、アトロピン、ジアゼパム(抗けいれん作用)。