核兵器
WEAPONS MANUAL 018
 
核兵器は、核反応で放出されるエネルギーを利用して大量破壊を行う目的で作られた兵器の総称であり、原子爆弾(核分裂爆弾)、水素爆弾(核融合爆弾)、中性子爆弾(放射線強化型核爆弾)などがそれにあたる。核兵器(Nuclear weapon)は、生物兵器(Biological weapon)と化学兵器(Chemical weapon)との頭文字を合わせてNBC兵器として総称され、いずれも大量殺戮の可能性が極めて高い兵器である。

核兵器の開発は、原爆から水爆という順序で進められ、水爆は広島型原爆の何千倍もの爆発威力をもつ。核兵器には戦略核と戦域・戦術核との区別があり、概ね爆発威力の大きいものが戦略核、小さいものが戦域・戦術核と分類されるが、その基準は必ずしも厳密なものではない。その区別は運搬手段の性格によるところが大きく、敵本国を直接攻撃できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機に搭載されるものが戦略核兵器である。それよりも射程や航続距離の短い、敵本土以外の目標を攻撃するための中距離弾道ミサイル(IRBM)、準中距離弾道ミサイル(MRBM)、中距離爆撃機に搭載されるものが戦域核兵器である。さらに短い射程のミサイル(SRBM)その他に装備されたものが戦術核兵器である。その種類は極めて豊富で、戦闘爆撃機搭載の核爆弾、空対地・空対空・地対空の各種ミサイル、陸海軍用核砲弾、核魚雷、核爆雷、核地雷等々、あらゆる分野で通常兵器と並んで装備されている。なお、核地雷や核砲弾、SRBMなどは、戦場核と呼ばれることもある。
 
原子爆弾(核分裂爆弾) 【Atomic bomb】
原爆は、ウランやプルトニウムなどの原子核が起こす核分裂反応を超臨界状態にすることで爆発させる核兵器である。第2次世界戦争が始まる直前の1928年の暮れに、ウラン235が核分裂を起こすことが発見された。原子核は、原子の中心にあり、大きさが原子の1万分の1程度で陽子や中性子、電子などの素粒子から成り立っている。ウラン235に中性子が吸収されるとウランの原子核は不安定になり、原子量の小さい原子核に分裂してしまう。そのときに2〜3個の中性子を放出し、その中性子が別のウラン235に吸収されて次の分裂を起こすということが繰り返されるとき、それを核分裂の連鎖反応といい、同じような核分裂を起こす物質としてプルトニウム239が知られている。核分裂を起こすウラン235は、天然ウランの中に0.7%しか含まれない。そこで核分裂を利用する為に、ウラン中のウラン235の割合を大幅に高めることが必要で、これを濃縮という。原子力発電用の濃縮ウラン燃料はウラン235が3〜4%に高められており、兵器に利用される高濃縮ウランはほぼ100%がウラン235である。ウラン濃縮法は、遠心分離法,ガス拡散法,化学交換法、レーザ法などがあるが、現在では遠心分離法、ガス拡散法が主に使われている。プルトニウム239は原子炉の使用済核燃料から化学的に分離される。一回の核分裂で約2億電子ボルトのエネルギーが放出される。高性能爆薬TNTの反応が1分子あたり10電子ボルトのエネルギーを放出することを考えると、その2000万倍の巨大な大きさのエネルギーである。連鎖反応が起こるためには核分裂で生じる中性子が核分裂物質の外に逃げ出さず、続く核分裂に効率よく使われる必要がある。そのためには核分裂物質の量を多くし、その形状を工夫する。連鎖反応が起こりはじめる最小質量を臨界質量という。形状が球形の場合、臨界質量はウラン235で36kg、プルトニウム239で10kgであり、周りを天然ウランやベリリウムといった中性子の反射材で覆った場合、臨界質量は大幅に減少する。ウランの密度は約20g/cm3であるので、単純に計算すると直径15cmのウラン235の金属球があれば核分裂連鎖反応が生じる。広島に投下された原爆(濃縮ウラン型原爆:リトルボーイ)は約60kgのウラン235を使いTNT火薬に換算して1万5千トンの威力を示した。また、長崎に投下された原爆(プルトニウム型原爆:ファットマン)は
約8kgのプルトニウム239によるものでTNT火薬に換算して2万1千トン相当の威力を示した。核分裂物質を爆発的に反応させる為には、瞬間的に臨界質量に到達させることが必要となる。広島型原爆は、砲身のような堅固な筒の中で、両端にウラン235を置き、火薬の力で短時間にこれを一体化して核分裂を起こす。この方式をガン・バレル(砲身型)方式と呼んでいる。長崎型原爆はプルトニウム239を臨界質量に満たない固まりに分けて球形のケースに収め、この周囲を囲んでいる火薬の爆発力で中心部に高密度に圧縮し、核爆発を起こす。この方式をインプロージョン(爆縮型)方式と呼び、現代の核兵器の原型となったものである。なお、核分裂によって核分裂物質が飛び散るため、核分裂物質全部を爆発させることは不可能で、核分裂爆弾の上限はTNT火薬に換算して50万トンと言われている。
(左:リトルボーイ/右:ファットマン)
 
水素爆弾(核融合爆弾) 【Hydrogen bomb】
水爆は、核融合を利用した爆弾。原子爆弾を雷管代わりに用い、この核分裂反応で発生する放射線、超高温、高圧を利用して、水素の同位体で原子量の大きな重水素や三重水素の原子核が反応してより重い原子核をつくる核融合反応を誘発し、莫大なエネルギーを放出させる。普通の水素は核融合反応の速度が遅く、実用にならないので、「水素爆弾」という名称はやや不正確。原爆による高温度が重要である点から「熱核爆弾」と呼ぶ場合もある。一般に核出力は原爆をはるかに上回る。なお、中性子爆弾も水爆の一形態である。核融合反応で放出されるエネルギーは300万電子ボルト〜2000万電子ボルトと核分裂で放出されるエネルギーの10分の1程度であるが、水素の質量はウラン等に比べてはるかに小さいため、同じ質量で比較するとそのエネルギーは数倍大きい。原子核同士を融合させるには、原子核が非常に接近する時に生じる原子核のプラス電荷同士の大きな電気的反発力を上回るだけの運動エネルギーを原子核自身が持つ必要がある。核融合爆弾では物質の温度を1億度以上に上げてこのエネルギーを与える。現在、こうした超高温状態を作り出す
唯一の方法は核分裂爆弾を爆発させることである。現在の水爆(核融合爆弾)は、引き金となる核分裂爆弾と、それによって生じる超高温状態で点火される核融合爆弾の組み合わされたもの、核分裂-核融合混成爆弾である。核融合反応には臨界量がないため、核融合爆弾の爆発力に上限はない。実際,米国は1954年にビキニ環礁で15メガトン(1500万トン、広島原爆の1000発分)の威力を持つ水爆の実験を行っており1961年にソ連も60メガトン水爆の実験を行っている。さらに大きな威力を持つ水爆の製造も可能であるが、現在は戦術上の理由から1メガトン以上の核弾頭を製造する理由はないといわれている。
 
 
中性子爆弾(放射線強化型核爆弾) 【Neutron bomb】
1960年代以降特に進展をみせたのは、核兵器の小型化である。その一例として、レーガン政権下で脚光を浴びた中性子爆弾があげられる。中性子爆弾は正式には放射線強化弾頭といい、熱線と爆風の威力を小さくした代わりに、中性子の量を大きくした放射線殺人兵器である。通常の核爆弾と比較して、熱エネルギー(爆風など)へのエネルギー放出割合が低く、そのため、建造物などの被害は相対的に減少させることができる。その一方、中性子線の放射があるために、人間を初めとする生物には放射線障害による死傷を与えることができる。ただし、熱核爆発が全く起きないわけではなく、相対的に小さいのみであり、爆風などの被害半径よりも中性子線による被害半径のほうが大きいものである。中性子爆弾は、使用後の占領時に市街の建造物やインフラ設備を利用できるようにするための爆発力縮小に端を発し、主として自軍地上部隊の行動を視野に入れて開発された。そのため、弾頭威力も核としては小さく、残留放射能も少量になるように
設計されている。中性子線は透過力が強く、鉛などの金属板も透過するが、コンクリートや水など放射線を遮断できる遮蔽物に覆われた地下核シェルター等への攻撃能力は小さい。本爆弾の開発の経緯としては、核兵器に対し、密閉された戦車や艦船の防御力が予想以上に高いことが証明され、それらの装甲を貫いて兵員の殺傷を目的にする効果的な戦術核の運用の一環として開発された。通常の核爆弾との構造の違いは、中性子反射材にある。通常は、核反応を効率化させるために、弾頭の内殻をウラン238などの中性子反射材で覆う。しかし、中性子爆弾においては、それにクロムやニッケルなど用いて、中性子の吸収・反射を抑えている。そのため、核反応によって発生した中性子線が、周囲に放射されるようになっている。なお、中性子線の発生にあたっては、核分裂よりも核融合の方が効率が良いため、水素爆弾が用いられる。当初は、中性子線による電子機器への障害発生を用いて、弾道ミサイル迎撃に用いる手段として考えられた。その後、1ktの弾頭ならば、被害半径1,000m程度に抑えられることもあって、戦術核兵器としての利用が考えられた。